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●雑誌「オリコン」より転載。（８６年８月下旬？発売号）
・「ＷＰ社に問い合わせ 殺到」 中森明菜
・「不思議」の ”不思議” に世の中 大混乱
●８月１１日、月曜日。あと２日会社に行けば、今度は お盆休みだと
考えながら出社してきたワーナー・パイオニア社員を出迎えたのは、一斉に
鳴る電話の音だった。
”リ・リリーン！！”
”もし、もし”
”あのうー。『不思議』のレコード買ったんですけれど、なんか不良品
みたいなんです。明菜ちゃんの声が小さくて聴き取りにくいんですけど・・・”
その日１日だけで、電話の数は１００本をこえた。今でも、問い合わせは
多いという。
でもさ、中森明菜のニューアルバム「不思議」を聞いて、「アレッ！？」と
思った人、多いと思う。なんたって、明菜のヴォーカルが”不思議”なくらい
後ろに引っ込んでいる。自分のレコードが、おかしい！！と思う人が出てきても
なんら”不思議”ではないのだ。
という訳で、『不思議』の”不思議”を解明すべく、ワーナー・パイオニアに
単身のり込み、明菜のディレクター、藤倉さんから直接 お話をきいてきた。
まずは、『不思議』が誕生するまでをチェックしてみると・・・。
「そろそろコンセプト・アルバムを作りたいネ」なんて以前から話していたんです。
そしたら本人が”不思議”というコンセプトを持ってきまして、”これはオモシロイ”って
事になったのが、昨年初めなんです」
なんと１年半以上も前から あたため、進めてきた企画だったのだ。スゲエ。
そして、作家陣の選定、曲発注、レコーディングとなるのだが、作家陣も彼女の
”不思議”を具体化してくれる人をと、吉田美奈子、ＳＡＮＤＩＩ、久保田真琴、
ＥＵＲＯＸらが選ばれたのだ。特にＥＵＲＯＸは、最終的にはアレンジ面でも大活躍、
（一旦は別の編曲家が入ったのだが、最終的には彼らのアレンジが採用された）
このアルバムのテーマをよりハッキリさせたのだ。
レコーディング作業は、今年正月から２月一杯、そして５月頃までが
トラックダウンに費やされた。ヴォーカルを小さくする ミキシングは、
元々明菜自身のアイデアなのだという。
「歌と歌詞が聴こえにくいと感じるかもしれませんが、このアルバムでは
明菜の声と表現力と言葉では とらえることのできない情念を感じて
欲しいんです。それが、明菜本人の狙いの１つでもあるんですから」
そして、１回目のトラックダウンが終了した。
「トラックダウンでは、コンサートホールでライブを聴いているような音にしよう
って事で、トラックダウンで出た音をスピーカーに戻して箱鳴りをエコーに
使ったり、いろいろ苦労しました。最初にヴォーカルの小ささは今と変わらない
けれど、芯（しん）をつけて明瞭に固まりとなって聞こえるようなトラックダウンを
したんです」
けれど、そのミキシングでは、”カッコイイけど不思議じゃないネ”と明菜。
そして、ただ今発売中の『不思議』が出来上がったのだそうだ。
つまり、サウンドと歌がひとつの”カタマリ”となって聴こえる 第２の
トラックダウンが行われたという訳だ。
明菜自身は、このアルバムを大変気に入ってるんだそうだ。
「先日も”私が買う方だったら、こんなアルバムを見つけたら大喜びしちゃうわ”
と言ってましたからね。でも、これが今後の彼女の方向なんだと限定して
欲しくはないですね。これは彼女の一面ですから。年内に次のアルバムを
発売する予定ですが、次のアルバムで 又こういうトラックダウンをするって事は
ないと思います。」 （注：次のアルバム＝クリムゾン）
中森明菜は、現在の自分に決して満足する事のない歌手だ。常に何か新しいもの、
面白いものを求めている。今までのポップス・シンガーの音作りのセオリーを
根底から くつがえすような このアルバムも、そんな彼女だからこそ出来たと
いえるんじゃないのかな。
さて、このアルバムを買った多くの人達、もう１度リラックスしてボーっと
しながら、このアルバムを聴いて欲しい。そうすれば、このアルバムで彼女が
表現したかった事が見えてくると思うのだ。
最後に、このアルバムを聴いたファンの１人（北海道の主婦）からＷＰ（ワーナー
パイオニア）社に寄せられた手紙を掲載しよう。君は、このアルバムを どう
受け取るだろうか？
「ニューアルバム『不思議』聴きました。本当、タイトル通り、今まで聴いたことがない
もので、しかも明菜さんじゃないみたい。噂には聞いていたけど驚きました。
何とも言えません。イメージ的には、暗く深ーい 深ーい海の底。えたいの知れない、
不気味で、でも どこか落ち着く感じ。とにかく、そう 不思議なレコードです。
今度聴いた時は又違ったイメージがわくかもしれません。明菜さんは、これから
どこへ行くのでしょう。何だか遠くへ行ってしまいそうで、不安と期待が入り混じって
います。
Ｐ・Ｓ 今までの明菜さんの歌は、どうしても かまえて聴いてしまいました。
今度は手紙を書きながら、ただボーッとしながら部屋の中に流れている感じです。
いい音ありがとう！！」 ■■
●オリジナルとしては、『Ｄ４０４ＭＥ』以来、１年ぶりのアルバム。
初の中森明菜プロデュース作品。
ＬＰレコード（アナログ）のみ、世界初の夜光（塗料）ディスク。
中国語訳された歌詞など、音以外にも不思議で一杯のアルバム。
○補足トリビア
・このアルバムジャケットは、香港で撮影されました。
・ジャケット写真＆アルバムのイメージは、ハワイの人形
ディゴドン（リゴドン）をモチーフに作られました。
（オデコに蝶が描かれている人形）
・このアルバム、当時は賛否両論だった。てか、「否」の方が多かった。
・普通のアイドルだったら、「ＤＥＳＩＲＥ」と「ジプシークイーン」
を入れた、「売れセン狙い」のアルバムを作るよね？でも、
明菜は、「シングルとアルバムは別」の意識が、この頃から強く
なっていったらしい。レコ大・Ｖ２の後だしねぇ。絶好調の時期ですな。
・ＥＵＲＯＸの「音」の録音は、８６年の２月頃まで、山中湖で やったそう。
・ＥＵＲＯＸも、自身のアルバムで、数曲、セルフカバーしている。
・アルバム「不思議」。オリコン・チャート１位を記録している。（２週だったかな）
・２００３年のツアーで、「おき火」、「マリオネット」を明菜が唄って以来、
中古ＣＤショップでは、「不思議」、「ＷＯＮＤＥＲ」が、姿を消した・・・との
噂。どちらかと言うと、「不人気」のＣＤだったのだが・・・。
・「ＷＯＮＤＥＲ」を聴くと、『不思議』の１曲、１曲のクオリティーの高さが
分かるよ。「明菜・初心者」は、「ＷＯＮＤＥＲ」から聴いて下さいね。
●発売当時、実は、自分も「好きじゃなかった」派です。
カセットを買って、ラジカセで聴いてたけどさぁ。歌詞が聞き取れないし。
どうしても、ＴＶの「ジプシークイーン」を唄う、美しい明菜との
ギャップを感じたわけですよ。８８年に「ＷＯＮＤＥＲ」がリリースされて、
ようやく再評価できた・・・ってわけです。ハイ。
だって、当時「中学生」ですよ？ 自分。ガキでした。
「クリムゾン」や「ノンフィクション・エクスタシー」は最初から大好きだった。
あと、８６年のライブビデオが撮影されなくて残念です。８６年のツアーは、
北海道や石川県・金沢で、公演時間が短くなるトラブルや（金沢公演なんて、裁判にまで）
京都公演なんて、明菜が倒れちゃったんだもの。
「ライブ撮影」なんて言ってられなかったんだろうね。つくづく残念。
●８６年から、シングルとアルバムの「世界」が大きく離れていった感じがしますね。
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